








福岡・中州川端の明治通りと博多川の角地(旧玉屋)に新しく建てられたビルの11階に、この聘珍樓はある。もともと大名にあった聘珍樓を中州に移転したものである。「中国料理店ということで、中国の伝統的なモチーフを安易に取り入れて模するのではなく、日本にあって多くの日本人が利用するのだから、あくまでも“和”を意識した空間、それも数奇屋などといった様式的なものではない“和の空間”をつくってほしい」とは、鋭敏な感性と先見性を併せ持つオーナーの要望である。これは今回のデザインコンセプトのすべてを言い表しているように思う。
全体計画としては、ゆったりとしたラウンジと宴会場としても利用されるダイニング席、そして、数多くの個室からなる単純な構成である。それぞれの空間を、独立した変化のある空間として据えながら、全体として整合性のある空間を求めた。
今回もまた、数多くの自然素材を用いている。大きな自然肌の庵冶石、手斧掛けされた栗板、網代に編んだ銅や真鍮など、さまざまなテクスチャーを施し、光によってその表情に陰影をつくり出し、それぞれの素材の特性を生かそうと思った。言い換えれば、いろいろな素材を用いながらも、それを感じさせない“和の空間”をつくり、そこにアンティーク家具など中国のエッセンスを散りばめることで、今までにない中国料理店の雰囲気をつくり出そうと思った。